◆微妙に語り難き仲◆

 胸に煌(きらめ)く霜降り勲章。肩にAの五つ星。真紅の軍服身に纏うプレミアロース
大将軍。霜降り軍団の総帥です。和牛旨味の極致です。
「あっそう、でも今日私あっさり系」 ・・・そんな時ヒレ姉妹。

 ヒレは前が太くて先細リ、まるで空飛ぶ悟空の金頓雲。たかだが数キロ、いつも足地に
着かぬ最高値で“ぶっ飛んでる”のもどこか金頓雲に通じます。
太い方から<赤身ソフト><上ヒレ><ヒレ>と三分割。

 <赤身ソフト>の言い分は「私が主役とまでは言わないけれど、“分かり易けりゃ”の
安易な名には納得できない。洒落た店では上品に“フィレミニヨン”と呼ばれている」
そうなのです。
 すると最後尾の細身の<ヒレ>が「赤身ソフトで良いじゃない。ふっくら柔らかぴった
しよ、私こそなぜ細身を理由に“上”の冠頂け無いの」と尖ったお顔で御冠。
 そこは長女の<上ヒレ>“シャトーブリアン”「まぁ、まぁ、膨れたり尖ったり。
しっとり穏やか、そんな旨味がわれらヒレの本領でしょう」と、妹二人を諌(いさ)めます。

 新参の<プレミアヒレ>は三姉妹の質の高さが侮(あなど)れないのを知りました。
当初「私は王冠戴“シャトーブリアン”」と、少しお鼻にかけました。でも機も熟し、姉妹
の屈託の無いやり取りを楽しむ余裕もできました。その余裕が自らの旨味を不動のものに
するのです。

 さあ、ヒレ達の微妙に語り難き仲、その差異を少しはご理解頂けましたか。
「でも、“ミニオン”とか“ブリアン”とか・・・<赤身ソフト>って、やっぱり何?」と、
お客様。

 メニュー開けば旨味合戦鳥瞰図(ちょうかんず)。東は“赤身”西“霜降り”
 ご覧下さい。西軍の古強者“霜降り塩タン”めがけて東から「鶏口となるも牛後となる
なかれ」とけたたましい鬨(とき)の声上げ飛び出した“赤鶏”だけに任せておけぬと、
薙刀(なぎなた)掲げ果敢に突進する鉢巻姿のふくよかな女戦士。あれがお尋ねの
“赤身ソフト”なのです、お客様。