◆あざやかに厚皮剥(む)いて◆

 和食の板前さんの“大根の桂剥き” なかなかああ巧くは参りません。
早さといい、華麗なる手さばきといい。しかも何よりその薄さは見事です。
足場のきまらぬ宇宙で剥いた毛利さんの林檎の皮もなかなかでした。

それに引き替え当店で剥かれる<牛タン>のその皮の厚いこと。
厨房さんはボソボソと「牛タンの三分の一は煮ても焼いても・・・
他の三分の一は煮物用 残り三分の一がやっと塩タン」

焼肉メニューでまず最初にご注文頂くのが塩タン
初めてのお客様の当店への評価が決まる気の抜けない品なのです。
皆様どなたも、あの美食家特有の懸念と期待の眼差しでこの<塩タン>に
向かわれますので、ご期待に応えうるかといつも緊張させられます。

でも厚皮剥かれ、一見ひ弱な我らが<タン>は見かけによらぬ社交家
なのです。 薄切り厚切りお好み次第、ポン酢もタレもお手のもの、文字通り
酸(すい)も甘いも知り尽くし先陣を仰せつかったふる強(つわ)者です。

ほどなく、おだやかに笑顔浮かべてお客様、塩タン追加のご注文。
「ほらほら、厨房さん。華麗なる板前さんなど気取ってないで、
                            無骨なまでに厚皮剥いて!」